鏡の中に濡れた黒髪が見える。胸のあたりまで伸びた髪は、水に濡れると真っ黒に見える。 タオルで水気を拭きとって櫛でとかすと、それよりも少し茶色がかった目がみるみるうちに 濡れていくのが鏡の中で歪んだ。思わずひざを抱えると、乾ききらない髪が剥き出しの肩に 冷たかった。冷たくなっていく体と心を抱えて、声も出さずにただひたすら涙を流れるまま にした。 私の友達には何人かすごく綺麗な目を持った子達がいる。真っ黒な目ももちろん素敵なのだが、 私の少し茶色がかった黒い目には、見慣れない色の目を持った子達がとても魅力的に映った。 その中でもオリーブ色の目は特に透き通って見える。青い目よりもなぜか自然なのだ。 彼はそんなオリーブ色の目を持った数少ない友達の一人だった。透き通る、ガラス球のような 緑。そんな色のせいか、彼に見つめられるたびにドキドキして止まない。一度見つめられたら 頭から離れない彼の目の色を思い出すたびに、少し幸せになれるほどだった。私の肩を抱く 彼の手のぬくもりよりも、優しく包み込むような声よりも、そのガラス球のような目に 惹かれてどうしようもなかった。 「ごめん・・・」 彼の目が曇る。寄せられた眉の下で、悲しげな色に変わった目はいつも通り透き通っていた にもかかわらず、私は少しも幸せを感じなかった。どうしてもそれ以上見ていられなくて 私はうつむいた。目をそらさないと吸い込まれてしまいそうだった。ここで目を見て しまったらきっと私は立ち上がれなくなる。本能的にそんな危険を察知して、私は目を 上げずにうなずいた。声さえ出なかった。 最後に見た彼の目は、思い出すたびに悲しくなるような色だった。透き通った ガラス球が私に残したものは、ひたすら流れつづける涙だった。もう二度とあのガラス球を みて幸せになれる日は来ないのだろうか。きっと来ないだろう。でもそれはおそらく 私たちの運命で、きっと私は新しいガラス球を見つけなければいけないのだろう。 その日まで。新しいガラス球を見つけるその日までは、彼のガラス球が私の心に棲み つくはずだ。
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